SPECIAL

2015/05/27

【コラム】MLBと母の日のスペシャルな関係

5月10日、大リーグでは母の日恒例のイベントが行われた。「ピンクバットの日」とも呼ばれるこのイベントでは毎年、MLBと乳がん支援団体が協力し、試合を通じて啓発活動を行っており、その一環として選手がピンク色のバットで試合に臨むのだ。(ちなみに公式試合で使用できるバットの色は黒・茶色・赤・白に限定されているが、この日だけは例外が認められる)。試合で使用したバットは後日オークションにかけられ、売上金が乳がん撲滅の研究費用として寄付される。

10年目を迎えたピンク色に染まる母の日

photo

今年で10年目を迎え、"ピンク度"も上がってきた。バット以外にも、アンダーウエア、リストバンド、シューズやグローブにピンク色をあしらう選手もいれば、キャッチャーのプロテクターやホームベースにもピンク色のアクセントが施された。ピンク色の服を着て試合を観戦するファンも多く、ボールパークはこの日、文字通りピンク色に染まる。

来場者に先着順で配られるお土産「ギブアウェイ」も母親を意識したものが多く、例えばシアトル・マリナーズでは球団のロゴをプリントしたリボン付き麦わら帽、タンパベイ・レイズでは球団のマスコットがついた写真立てが配られた。またトロント・ブルージェイズは球場の一角に「母親を癒すコーナー」を設け、簡単なヘアメイクやネイルケア、手や背中のマッサージ、さらには「酸素バー」なるサービスを行った。

ピンク色を身につけた選手たちの活躍

photo

そして、ピンク色を身につけた選手らは、今年も母親に捧げる記録を多数誕生させた。
例えばクリーブランド・インディアンスのデービッド・マーフィ外野手。試合前に母親に日頃の感謝をメールしてから臨んだ本拠地でのミネソタ・ツインズ戦で、ピンクバットを使って4打数4安打。チームは8-2で勝利を挙げ「後で電話もかけないと。いい母の日のプレゼントになった」と報道陣に語った。
またシカゴ・ホワイトソックスのゴードン・ベッカム内野手は、本拠地でのシンシナティ・レッズ戦の同点で迎えた9回二死、走者二・三塁の場面でレッズの守護神アロルディス・チャップマンの球速100マイル(約161キロ)を右中間へ運ぶ適時打を放ち、3-2の勝利を導いた。最終回まで無安打だったベッカムは「(試合途中で)ピンクのバットを捨ててやろうかと思った」と振り返ったが、バットは彼を見放さなかったようだ。
打者だけではない。ニューヨーク・メッツのベテラン右腕バートロ・コローン投手は、敵地でのフィラデルフィア・フィリーズ戦に先発登板し7-4で勝利を収め、今シーズン通算6勝目にリーグ一番乗りを果たした。更に7試合連続で四球ゼロを記録*し、今季通算40奪三振も達成。もともと登板予定日ではなかったが、チームメートの怪我に伴い先発ローテが変更となり、昨年母親を乳がんで亡くしたコローンが自ら登板を申し出た。「(この記録を)母の日に達成できて嬉しい。世界中のすべての母親へ捧げたい」と語っている。
*無四球記録はイニング数で言うと40と1/3イニング。1994年にブレット・セイバーヘイゲンが達成した47と2/3イニングに次ぐ球団2番目の記録。


そして、コローンに次いでシーズン6勝目を挙げたのが、シアトル・マリナーズのフェリックス・ヘルナンデス投手だ。本拠地でのオークランド・アスレチックス戦では白星だけでなくキャリア通算2000奪三振も記録。29歳での到達は史上4人目という年少記録も併せて達成したヘルナンデスは、試合後に「今日は母の日だけど、母親は故郷ベネズエラにいて会えないのが残念。今日の勝利は母と妻に捧げる」とコメントした。
大リーグにはドラフト以外でも選手を獲得できるシステムがあり、米国・カナダ・プエルトリコ在住者以外の選手を獲得する際の契約解禁年齢は16歳だ。ヘルナンデスも16歳になった直後にマリナーズと契約を結び傘下のルーキーリーグでプレーを始めているし、今シーズン本塁打や打点でア・リーグ上位を走るミゲル・カブレラ(現デトロイト・タイガース)も契約解禁年齢になった直後にフロリダ・マーリンズと契約を結んでいる。16歳と言えばまだ体の線も細く顔つきも幼い。そんな我が子がプロとしての道を歩む、国を離れるとなれば、本人より母親の決意の方が大きいのではないかと想像する。

遠く離れた母親に想いを馳せたMLB Mothers Day

photo

「勝利の女神」と言えば、ギリシャ神話でもローマ神話でも、大きな翼をしたがえた美しい女性がシンボルだが、この日のボールパークに君臨したのは、それほど若くない、手や額にシワが刻まれた女神ではないだろうか。ピンクバットの日は、乳がんの啓発がきっかけではある。しかしカーネーション色に囲まれて試合に臨んだ多くの選手が、この日、遠く離れた母親に思いを馳せ、自分たちには揺るぎない勝利の女神がついていると実感できたことだろう。

2015/05/27